「Foreign Affairs」掲載の「Obama’s Grand Strategy」の続きです。
この論文はほぼ終わりまで読み進んでいるのですが、またまたひねった表現が出てきたので
紹介します。
留学や仕事で英文を読む場合、じっくりひたっている余裕がないのですが、よくよく読むと
色々な仕掛けが施されていることが分かります。時間のある時はこういう精読もよいと思います。
p.66の「As a set of ideas, Obama’s new grand strategy holds together in most parts of the globe」で始まるパラグラフです。
そもそも「hold together」というのがちょっと分かりにくい。辞書では「まとまっている」という意味
ですが、コンテクスト的には「支持されている」という感じです。面白いのは、この後です。
オバマの新しいGrand Strategyが友好国にも安心感を与え、ライバル国にもあなどれないもの
として理解されていると評価した上で、「But the administration’s embrace of democratic
ideals has not gone down as well in Saudi Arabia or Israel; those countries prefer the devils
they know ........」と続きます。
この「embrace」というのは、「commitment」とかと同様に、ちょっとぴんと来ない言葉ですよね。
こういう言葉は、色々な文脈で使われているのを繰り返し読むことで感じを掴むのが一番だと
思います(たとえば、敗戦後の日本について書かれた本のタイトル「Embracing Defeat
(by John W. Dower)」)。
この文脈では、「アメリカによる民主主義的な理想への信奉(ちょっと固いか)は、サウジや
イスラエルでは受け入れられていない。なぜなら、両国とも、「正体のわかっている災いを
好む(リーダーズ+プラスより)から」ということになりますが、もうひとつ分かりません!
ようするに、民主化を求める声が広がっている中東で王政を続けるサウジアラビアと、入植地
問題などでパレスチナとの対立を続けるイスラエルは、共にそうした姿勢がトラブルの元に
なっていることは分かっていても、まあ、ある意味「慣れた」トラブルだからよしとする――
逆に、民主化とか、パレスチナに歩み寄った和解という道を選択することによって発生するで
あろう、新しい災い((多分あるでしょう)よりもましである――という、ちょっとひねくれた考え
ではあります。
これは中東の話だからぴんとこない人が多いかもしれませんが、北朝鮮の敵対的な態度や
行動にも当てはまるかなと思いました。「North Korea prefers the devils they know」ということ。
一方で、ミャンマーは今のところ逆方向に行っています(make lemonade out of lemons)。
まあ、慣れない分析はこのへんにしておきましょう。
最後に、銃規制法案の上院否決を伝えるニュースで使われた表現を紹介します。
「The gun control (background check) law was scuttled. Obama said that the legislation
failure was mainly due to fear mongering(!)」
色々ありますな。
今回は、以前に紹介した「1-2センテンスをパッと見て、キーボード入力」という練習法の教材
で使っています「Foreign Affairs」の「Does Obama Have a Grand Strategy」という論文で
面白い表現を発見しました(この論文自体は、アメリカには戦略があるのかという疑問に
ついて、あーでもない、こうでもないと論じており、安全保障方面で興味のある方には有益かも
しれません)。
この論文の趣旨としては、Grand Strategyというものは、それが明確に示されたからといって
好ましい結果を生むとは限らない(例としては、ブッシュ政権における「democracy promotion」
で、アフガンとイランで戦争を起こし、アメリカの国際的な信頼を失墜させるとマイナスの効果)。
一方で、今のような不確実な時代にはあった方がアメリカの方向を他国に示して安心させると
いう意味でも好ましいという論旨なのであります。
論文の後半で、オバマ大統領の国家安全アドバイザー補の発言として、オバマ政権の戦略
ビジョンについて次のように説明しています。
「If you were to boil it all down to a bumper sticker, it’s “Wind down these two wars,
reestablish American standing and leadership in the world, and focus on a broader set
of priorities, from Asia and the global economy to a nuclear-nonproliferation regime.”
「Boil down to a bumper sticker」という表現が面白いですね。
車のバンパーに張るメッセージという感じで、ひとことで言ってしまえばということなのですが、
でも、これ長くない? とてもBumper stickerに収まるとは思えません。
という突っ込みはおいといて、この表現は会議かなにかで使えそうですね。(なぜ「were to」
なのかよく分かりませんが、直接引用ですので実際の発言ということでしょう)。
また、「focus on」はよく出てきますね。私もよく使わせてもらっています。インパクトはだいぶ
弱くなってきていますが(七味唐辛子みたいなもので、昔ほど辛くありません)。
さらに、この次の文章もちょいひねった表現が目を引きます。
Obama’s first grand strategy, as explained in various speeches and administration initiatives
in his first year, was to make lemons out of lemonade.
最初に読んだ時にはすぐ気が付かなくて、インターネットで「make lemons out of lemonade」を
調べたら、「make lemonade out of lemons」が出てきました。こっちの方が当然ロジカルですね。
すっぱいものから甘口の飲み物を作るということで、「事態を良い方向に持っていく」という意味
らしいですが。ここでは反対に並べてあるので、当然反対の意味になるということですかね。
「事態を悪い方向(というかややこしい方向)に持っていく」といった感じですかね。
この後、2-3パラグラフぐらい読んでいくと、「Multipolar World(多極世界)」を「Multipartner
World」(みんなパートナー)に変えていこうという、オバマの呼びかけで、ロシア、中国に
接近したが、向こうはアメリカのことをパートナーとは思っていない、また、既存の友好国も、
これまでアメリカの担ってきた「Global public goods(軍事力や国際援助ということでしょう)を
提供する負担を自分たちに肩代わりさせようとしているのではという疑念を抱く結果となって
しまったということで、あーあなるほどSourになったねと分かる次第です。
このレトリックは読者を飽きさせない文章を書くという意味で参考になりますね。
ちなみに、「lemon」には「欠陥車」という意味もあります。
「The Reckoning」から、ヘンリー・フォードの後半生です。
隆盛期にはさらに面白い話も色々あるのですが、内容の詳しい紹介や分析が本来の目的
ではないので、「make a long story short」します(これが話の間にぱっと挟めるとカッコいい
ですよね)。
ヘンリー・フォードの後半生は「困った人」になります。隆盛期を語った4章のタイトルが
「The Founder」、その次の5章が「The Destroyer」ですから、想像がつきます。
5章の冒頭は次のように始まります。
Although Henry Ford seemed to dominate every aspect of industrial achievement, his
strengths eventually became his weaknesses. One notorious example was staying with his
basic car for too long, ignoring technological change in the cars themselves while
obsessively pursuing technology change in their manufacture.
前回も紹介しましたが、この作家は、ある人の特徴(長所も短所も)を一文で描くのが好き
であり、巧みですね。
「強みが弱みとなる」、このフレーズは上から目線で忠告気味に言う時に使えますね。
成功体験から離れられなくなり、神話に固執したということですね(「As far as I can see,
the only trouble with the Ford car is – that we can’t make them fast enough」(p.97)という
フォードの発言がよく物語っています)。
フォードは「basic car」(Model T)のデザインを変えることには頑固に抵抗したようです。
上記の文章に続いて、フォードの旅行中に、部下のエンジニアが改良車を作って見せたら、
そのドアを引きちぎり、窓ガラスをたたき破りと、破壊しつくしたというエピソードが書かれて
います。(後でもっとすごいエピソードも出てきます)。
Ford was a giant company run more and more by the whim of an aging, mean-spirited,
often irrational eccentric.(こりゃまた手厳しい!他の箇所では、「cantankerous」という表現も
されています)
It was no longer a creative company focused on an exciting new idea and headed by an ingenious leader……(肯定形にすると、社長の訓示に使えそうです)
そうこうしているうちに:
「.....Chevrolet began to surge(emergeとか、loomもよいのでは). Ford defiantly
(あくまでも固執したということですね) stayed with the Model T. Perhaps 1992 can be
considered the high-water mark(この表現好きだな)of Ford’s domination of the
market......」(p.97)
「American’s roads were getting better, and people wanted speed and comfort. Chevy,
unlike Ford, was responding.」(同上)となり、Chevyの売り上げが急増しますが、フォードは
対策として値下げしか行わず、その結果、売上も利益も落ち込みます。ようやく、1927年6月に
なって新車(Model A)の製造を発表します。
それでも、「Henry Ford remained locked into the past」という状況は変わらず、昔からの
パートナー、技術者も去り、残るのは「sycophant(おべっか使い)」となります。
ここで、気の毒だったのがヘンリー・フォードの息子(Edsel)です。人間的に魅力があり、しかも
自動車業界でも尊敬を集めた理想的な後継者だったのに(ヘンリー・フォードのパートナーは
「I don’t envy you a damn thing except that boy of yours」と彼を称えています)、頑迷な
父親と変化を求めるエンジニアや幹部との板挟みになり、苦しみます。
ヘンリー・フォードの人生の後半をまとめると、
「It was a spectacular self-destruction, one that would never again be matched in a giant
American corporation. It was as if the old man, having made the company, felt he had a right
to destroy it.(p.98)
私の好みで言えば、このフレーズを章の最後にしたいです。
ということで、この後、日産でのストライキの話が延々と続くので、「The Reckoning」は
ちょいお休みにします。
進行中の読書紹介ということで「The Reckoning」を取り上げます。
700ページちょい(細かい活字なのでかなりの文字数です)のペーパーバッグですが、
100ページぐらい進んでいます。
現在はヘンリーフォードの隆盛とアメリカ自動車業界の成長にかげりが出てくる時代です。
最初から振り返った方が順序的にはよいのでしょうが、現在読んでいる部分がもっとも
新鮮で、フレーズや単語を取り上げる場合に文脈に基づく感覚がまだ残っているという意味で、
ここから始めて、順次、前を振り返ります。内容をまとめるのではなく、印象に残るフレーズや
単語をとっかかりにして内容を振り返る形とします。
まず、ヘンリーフォードの技術者としての資質が次のように語られています。
He had a gift for looking at a machine and quickly understanding it, not only repairing it
but making it work better. The timing of his career could not have been more perfect
for a man of his gifts, for he came to manhood at precisely the beginning of the modern
machine age. (p.72)
「機械をちょっと見るだけでその仕組みが理解できて、しかも修理や改善もできる」という
天賦の才について一文で説明しています。
私の感覚から言うと、looking at a machineはgiftにかからなくてもと思うのですが、一連の
流れということなんでしょうね。似たような英文を書く場合の参考になります。
次は、「… could not have been more perfect」、「could not have been better」と同様の表現
ですね。
それから「for」の後の文章で、彼が如何に時代の寵児であったかを説明しています。
やはりうまいもんです。
デトロイトに出てきて、エジソンの工場に勤めたりして、最初は簡単なデザインの安価な
腕時計を作り、大量生産しようと考えるのですけど、たくさん売らなければならないので
断念したということです。
そのうちに、車の道に進むことになります(エジソンからもアイディアを評価されています)。
最初の会社はつぶれ、次もつぶれ、3回目にテイクオフしています(やっぱり、たくさん考えて、
失敗しているのですね)。
そして、Time and Motion Studyで有名なTaylorから学んで大量生産システムを確立します。
一方で、車がアメリカで成功したのは、石油の発見とぴったりタイミングがあったことも
大きいようです。
The coming of Ford was almost perfectly synchronized with the discovery in the American
Southwest of vast new reserves of oil. (p.82)
そして、車はアメリカを急速に変えていきます。
The availability of cheap energy and an inexpensive mass car soon transformed the
American landscape. Suddenly there were roads everywhere …….. The car stimulated the
expansiveness of the American psyche and the rootlessness of the American people; a
generation of Americans felt freer than ever to forsake the region and the habits of their
parents and strike out on their own. (p.86)
「the expansiveness of the American psyche and the rootlessness of the American people」
というのは、何か分かるような気がします。日本人とは真逆という感じかな。
以上、まとまったような、まとまらないような感じで。